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2019.05.21

一枚ずつ異なる表情が楽しい「にじゆら」の注染手ぬぐい、米肌コラボが完成

ライフスタイル

ゆうに高さ7メートルはあろう干し場に入り、天井をあおぐと、今染められたばかりの色鮮やかな晒し木綿が、午後の柔らかな光を浴びて輝いています。干してある長い晒しの模様をよーく見ると、青、赤、黄などの米粒が繊細にちりばめられたモチーフ。これは、スキンケアコスメの「米肌」と、手ぬぐいの「にじゆら」、2つのブランドがコラボした、オリジナルの手ぬぐいです。今回は、このオリジナル手ぬぐいができるまで、を工房からご紹介します。


「にじんだり、ゆらいだり」独特のやわらかな模様の手ぬぐい

ここは大阪・堺、50年以上も続く老舗の手ぬぐい染工場「ナカニ」。昔ながらのお祭りや返礼品などの手ぬぐいを委託で染めていましたが、2008年から明るい色や現代的なデザインを取り入れたオリジナルブランド「にじゆら」をスタート。大阪や京都をはじめ、東京の直営店や、多くの雑貨店やセレクトショップに並ぶ人気アイテムを日々生み出しています。

色と色が混ざり合っているところがにじみ、醸し出される柔らかさがゆらぎ。にじんだり、ゆらいだり。この特徴は、「注染」だからこそ生まれる味わい。明治時代、大阪で考案された染色技法で、専用のジョウロのような道具を使い、職人技で染料を「注ぎ・染める」ことでこう呼ばれています。ですが、最近では熟練の職人の数も減り、注染を扱う工房も日本中でわずか二十数件にまで数が減っているのだとか。注染の良さを広め、その技を後世に伝える大事な使命をもって、「にじゆら」の手ぬぐいは作られているのです。

米肌の持つみずみずしさ、透明感を手ぬぐいのデザインに込めて

今回、米肌コラボ手ぬぐいを手がけたブランドマネージャーの久間文美さんに、デザインコンセプトやこだわりについて、お話を伺いました。

「米肌のスキンケアのパンフレットや雑誌での記事は事前に見て情報は頭に入れていたものの、東京で米肌のチームのみなさんと打合せをして、イメージするカラーやどんなデザインにしようか、直接お会いしたらイメージが固まってとても楽しく進みました。そこから約1週間で、デザインはほぼ完成しました。

米由来の成分が原料であること、ボトルやテーマカラーのブルー、自分の肌から湧き出るようなうるおいをどんな風にデザインに込めようかな、と。米肌のモチーフである米粒で花を表現しましたが、大人の女性が使うものですから、かわいらしすぎたり、甘すぎたりしないように、配置のバランスは難しかったですね。模様の密集する部分、余白を使って軽さを出す部分、流れるような線で動きをつけた部分。重さや軽さ、線のデザインと面のデザインが調和して、清潔感や透明感などを表現し、商品コンセプトとリンクさせました。注染という技法は、細かいエッジやシャープな線を出すのは不得手な技法なので、それを逆手にとって、全体的にやさしく、柔らかな雰囲気に仕上がりましたが、寒色のスッキリした色みのおかげで、大人にぴったりのかわいらしい手ぬぐいが完成しました」(久間さん)。

メインカラーの青に、赤や黄を差し色で効かせて、さらに隣同士の色がにじんで紫やピンク、緑、黄緑に。この色のにじみは、染め上がりまで具合がわからず、しかも1枚ずつ異なるのだそう。まさに、職人の手作業だからこそ出せる味わいなのです。

使うとさらに柔らかく、自分になじむように手ぬぐいを育てる

先ほどの干し場で見た1本25メートルもある晒し木綿は、まだ繋がったままの手ぬぐい。カットすると25枚の手ぬぐいになりますが、端を縫ったりせず、切りっぱなしなのが、手ぬぐいのまたいいところ。

「縫い目の厚い部分がないのが手ぬぐいの長所で、乾きが早く雑菌が繁殖しにくいんです。日本で織られた最高級の晒し生地を使っているので、織り目は細かく手触りは柔らか、両端はきれいなフリンジになります」。久間さんは、ハンカチとして愛用している自分の手ぬぐいの、いい具合にほどけたフリンジ部分を自慢してくださいました。

久間さんをはじめ、ナカニのみなさんは、「ハンカチ代わりに手ぬぐい」がスタンダード。

「ハンカチよりも大きいので、拭く場所を変えたり、外側に出す模様を考えてたたんで、いろんな面を使えるのが楽しいです。洗濯を重ねると、さらに柔らかく、自分になじむように育ってきます。自分の気持ちや肌に寄り添ってくれる、安心できるものになってくれますよ。旅先の枕で寝つけないときも、自分の手ぬぐいをさっと枕に巻いて。顔に触れる部分が自分の手ぬぐいなら、心がほぐれて安心できるので手放せません」(久間さん)。

熟練した職人の絶妙な加減で生まれる奇跡の1枚

注染によって染められたにじゆらの手ぬぐいは、注いだ染料を下からポンプによって吸引しながら染めるため、一度に沢山の手ぬぐいを染めることができます。プリントのように模様や色糊が生地の上に乗っているのではなく、繊維の中から染まっているため生地の目(隙間)をつぶすこともなく、生地の柔らかな肌触りを保ちつつ表裏なくきれいに染め上がります。使用する晒しの上質さももちろんですが、その柔らかな風合いを生かした染めができるのも、注染の良さ。見た目も肌ざわりも気持ちよく、一度使うとたちまち手放せなくなるというのも納得です。

<注染の工程>
①糊置き
25mの白い晒し(手ぬぐい25枚分)を糊台の上に敷き、木枠で型紙を固定した上から、防染糊を木へらでムラのないように伸ばしてこすりつけ、蛇腹状に折りたたみながらこれを繰り返す。糊の濃度が濃く重いので、均一にのせるのはかなりの力仕事のため、木ヘラに指の形状のへこみが。

②染め
防染糊のついた折り重なった布を染台に移し、必要のない部分に染料が流れないように、 糊で土手を作ります。その中に"ドヒン"と呼ばれるじょうろで染料を注いでいきます。この時に、隣り合った色同士が混ざり合って、絶妙なにじみが生まれます。染料を均等に効率浸透させるために、下からポンプで吸引しながら注ぐため、 生地の目(隙間)をつぶすことなく、生地の柔らかな 肌触りを保ちつつ染め上がります。1版で多色染めできるので、注染は大阪生まれらしい量産できる効率的な技法でもあるのです。最後に定着剤で色止めします。

③洗い
染めがひと通り終わると「川」と呼ばれる洗い場に向かいます。 染めの段階で折りたたんで重なり、くっついている状態の生地の、防染糊や余分な染料を、職人さん自ら「川」に入って、全身を使って力いっぱいザブザブ水で洗い流します。糊が落ちるとほら、もうこんなにきれいな染め上がりが見えました。

④干し
生地を十分に水洗いした後、脱水機にかけ、すぐ乾燥させます。その昔は天日干しをしていたそうですが、天日状態を作った乾燥室で乾燥させます。まだこの時、25本分の生地はつながったまま。乾燥させてしわ伸ばしをしてから、1本の手ぬぐいにカット、検品や包装を経て完成です!

オススメの手ぬぐいの使い方

枕カバーや洗面に、とかさばらない手ぬぐいを旅先にもよく持参するという、ブランドマネージャーの久間さん。もちろん、日頃から、さまざまなデザインの手ぬぐいを、気分や季節によって使い分けているそうです。おすすめの使い方を教えてもらいました。

「好きな柄、色を選んで、まず手ぬぐいそのものを楽しみ、親しむことから始めてみませんか。私は会社にお弁当を包んできて、食後はお弁当箱を洗い、その包んでいた手ぬぐいで拭いています。家に帰ってお弁当箱洗いがないなんて、なんて楽なのでしょう。濡れても、ちょっと干しておけば、帰るまでには乾いちゃうので、またお弁当箱を包んで持ち帰ります」。

箱の両脇を結んで、ティッシュカバーにすれば、インテリアとしても楽しめます。季節やほかのファブリックとコーディネートして、汚れたら洗って、と重宝するそうです。お洗濯もお手入れも簡単なのが、またまたいいところです。

米肌7周年記念 コラボ手ぬぐい

持つ人の感性や生活に寄り添うにじゆらの手ぬぐいは、使い始めた時よりも、もっと心地いいものに自分でゆっくりじっくり育てていくもの。なんだか、毎日の基本のスキンケアで、お気に入りの肌を育んでいくのに似ていますね。

じっくり、肌も手ぬぐいも、自分好みに育てましょう。
 
<取材協力>注染てぬぐい にじゆら



Photo:Hidehiro Yamada
Text:Yuka Hanyuda
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